第八回バレンタイン企画
2013.02.06〜02.14実施




 一番多く票を集めた男女コンビについて、SSを書くという企画でした。


Q.貴方が好きな男女コンビは?

 投票期間 2013.02.06〜02.12
 総得票数 27票

 ゲン&キリー(NAVIGATOR44)――――― 8票
 トータ&ハナダ(願望交換局)――――― 4票
 ロー&レックル(ノンフィクション)――――― 14票
 圭太&撫子(学園パロディ企画)――――― 1票





●バレンタイン企画SS

「ノンフィクション」外伝



「筋だらけだね」
 ほくほくと白い湯気が上がる兎の肉を口内に放り込み、顎を二度三度上下させるなり、顔をしかめて彼が訴えるものだから。
「文句があるなら食べなければ良いじゃない」
 火にかけた鍋の底をぐるぐると掻き回していた彼女もまた、顔をしかめて言い返さずにはいられない。
「文句じゃなくて感想だよ。何だこれ、噛んでも噛んでも噛み切れないじゃないか」
「ローの歯と顎が貧弱なんじゃないの? 村の爺様たちなら一噛みで骨まで砕くよ」
「そんな人間は『爺様』なんて生易しい生物じゃなくて、最早一種の怪物だな。それでレックル、君は何をぷりぷり怒ってるんだ? 別に、君の料理にどうこう言っているわけじゃないだろう」
「自分に対して失礼じゃなくても、兎に対して失礼だよ」
 意見としてはあまり説得力がないと分かっていても、反発しないではいられずに、彼女は無理矢理に言い返す。それが予想外に琴線に触れたのか、それとも単にからかっているのか、彼は意外そうに目を瞬かせると、皿に残った肉の塊を神妙に見つめ。
「そいつは、悪かったね」
 語りかけて匙でそっと掬いあげると、二口目を口にした。そして再び、モグモグとじれったい程にしつこく咀嚼を繰り返す。
 そんなローの姿を眺めるうち、すっかり毒気が抜かれてしまったレックルは、呆れたように一度肩をすくめてから、自分の椀内の肉を口へと運ぶ作業を開始するのだった。



 “物語”は続いている。あの森の中で谷底へと墜落し、川を流されてから三日が経つ。
 盗賊から負わされたレックルの傷はまだ完治せず、歩みはやや緩慢なものの、ここ数日の旅路はほぼ順調と言って良い。王国からの追手が迫る気配も今のところはなく、西へ西へと、地図をそのままなぞるような道程は軽快だった。
 それは良いとして、だ。
「どうしてローは、やたらと自分の食べ物を欲しがるの? 美味しいものくらい、魔法でいくらでも出せる癖に」
 日も落ちたばかりの、まだ夜も早い頃合いのことだ。
 椀の端に親指をかけ、やや臭みの残るスープに息を吹きかけて冷ましながら、レックルは尋ねた。
 先の反発心こそ収まったものの、釈然としない気分はまだ、煮凝りのような重さで腹の中に溜まったままだ。
「前にも言ったろう? 僕は君の“物語”を書いているんだよ。君が感じたことを僕が体験しないで、一体どうやって文章に起こせって言うんだ」
 ちちち、と指の代わりに匙を振り、ローはあくまでも正当性を主張する。己の椀とローの皿とを無意味に見比べ、レックルは不満げに眉根を寄せた。
「じゃあ、今この瞬間をローが描写するとしたら、『筋だらけの肉を食べ』なんて書くつもりなの?」
「無きにしも非ず、だね」
「それはローの感じたことであって、自分の感じたこととは違う気がするんだけど」
「細かいことを気にするなよ、気分の問題さ」
 レックルの精一杯の皮肉も非難も、ローの口にかかればさらりと流されてしまう。これ以上深入りしたところで勝ち目はないと、レックルは反論を放り出して目の前の料理に集中する。
 ローと出会って六日目、二人の間に成立してしまっているそんな構図を、レックルはようやく、受け入れざるを得ないのだと理解し始めたところだ。
 旅荷の一つも持たないローだが、この自称天才魔法使い、自称負けすることなく、必要とあらばどんなものでも空気中からスルリと取り出してしまう。それは食料品についても例外ではなく、白磁の皿に乗ったチキンソテーやら、たっぷりのミルクとお茶が注がれたティーカップやらが忽然として出現する様を、レックルは幾度となく目にしている。
 にも関わらず、二日目の朝に食事を共にしてからというもの、ローは度々、レックルが食しているものに強い興味を示す。挙句の果てには、図々しくも分け前を要求してくるようになった。
 それはカチカチの固パンであったり、黒ずんで木乃伊のようになった干物であったり、レックルが採取した茸や木の実であったりと、特別に珍しい物でもなければ美味しいものでもないから、ローの感覚がレックルには不思議で堪らない。
 かと言って断りきれないのにも理由がある。貴重な食糧を一方的に搾取されてはレックルも堪らないが、彼女から分けて貰った分、ローもまた、新鮮な果実や甘い菓子や焼きたてのパンをぽんと渡してくれる。よってレックルもついつい、文句も言えずに要求されるがままになってしまう。
 それで結局、食事は二人で仲良く半分こ、という構図に落ち着いてしまっているのが現状。それ自体にはすでに慣れ、レックルも気にならなくなってきた。
 だが、人が苦労して獲って捌いたものを、開口一番「筋だらけ」では、工程の全てを担ったレックルにとって面白いはずもない。
 肉に筋が多いのは、レックルの所為ではない。それでも確かに、この料理をしたのはレックルなのだから。



 椀の中身を綺麗に食べ終え、鍋の中にガラリと匙を放りこむが、昼に食べた余りの肉だけでは、日中散々山野を歩いたレックルの腹を満たすには少々足りなかった。
 ごそごそと鞄を漁ってみれば、ふと手に触れたのは小振りな包み。くるまれているのは、王都までの旅路であらかた食べ終えてしまった、その僅かな残りだ。川に落ちたとき駄目になってしまったかと思ったが、奇跡的に完全に水没してはいないようだ。しかし、すっかり湿気ってしまっている。
 さっさと食べてしまおう。
 そう考えたレックルは、盛大に欠伸などしているローから隠れるように身体の向きを変え、摘み上げた「それ」を口へと運ぶ。だが、そんな仕草がローの目に留まらないはずもない。
「それ、なんだい?」
 いつの間にやら自分を注視していたローにひょいと指をさされ、レックルは「それ」を口にくわえたまま硬直する。王都に着く前に食べ切ってしまわなかったことを酷く悔いた。
 包み紙の中に一つだけ残っていたのは、焦げ茶色に焼けた平たい円盤状の塊。砕いた種子類が大量に練り込まれた、大きく素朴な田舎風の焼き菓子だった。妙な気まずさを覚えながら、レックルは一旦菓子を口から離し、渋々説明する。
「ダブネでよく作るお菓子だよ。軽いし日持ちがするし、栄養価が高いから、村を長期離れる時なんかにたくさん持っていくんだ」
 へえ、と呟きながら、まじまじと菓子を見つめていたローは、やがて当然のように軽く身を乗り出して。
「僕も食べ」
「駄目」
 ローが全て言い終わるのを待たず、レックルはぴしゃりと撥ねつける。あまりの即答ぶりに驚いたのか、思わず身を引いたローに追い打ちをかけるように、レックルはややツンツンとした口調で後を継いだ。
「これが最後の一つだし、そんなに美味しいものでもないし。これはあげないよ」
 彼女には珍しい頑なさが、かえってローの気を引いたのだろう。再度レックルに顔を寄せながら、興味深そうにローは訊く。
「何か特別なものなのか?」
「そんなんじゃないよ。普段からよく食べるし、村の女の人なら誰でも作れる」
「ふうん。誰でも、ね」
「そうだよ。ダブネだと、これが綺麗に作れるようになれば女の子は一人前、良いお嫁さんになれるって言われてて」
「君がそいつを作ったのかい?」
 もう一度、レックルが手にした菓子を指差して、ローは尋ねた。言葉を詰まらせ、レックルはゆっくりと、その手に持った菓子へ視線を送る。
 随分と歪な形だった。素直に「丸い」とは言い難い、ごつごつとして不格好な姿。菓子の表面には汚らしいヒビが幾つも走り、胡桃の欠片が不揃いにブツブツ飛び出している。
 かあ、と、レックルの顔が一瞬にして赤く染まる。
「昔から苦手なんだよ、こういう作業。村の女の子たちは皆綺麗に焼き上がるのに、自分だけはどうしても上手く作れなくて、男の子たちからはいっつも嫁の貰い手がないって……」
 レックルが早口に言う間、ローは笑うでもなく、じっと彼女と菓子を眺めている。その視線から逃れるようにレックルが目線を外すと、また可哀想な形の菓子が視界に飛び込んだ。その、どう贔屓目に見ても下手くそな出来栄えが無性に恥ずかしくなり。
「もう! 別に良いでしょ、形が悪くたって、食べる分には問題ないんだから!」
 自棄になったように、レックルは菓子の端に齧りついた。
 と、同時に。
 ローもまた、菓子に齧りついていた。
 レックルの歯が当たっているのとは逆の端を、彼女にとても近い場所で。
 至近距離まで迫ったローの鼻先がレックル鼻先に掠り、彼の長い金髪が彼女の頬にさらりと触れる。
 そのまま一秒と置かず、すぐさま顔を引いたローの口には、魔法で割ったのだろうか、綺麗に半分にされた菓子の片割れがくわえられていた。
 あまりのことに声もなく、半分になった菓子を歯で挟んだまま呆然とするレックル。
 そんな彼女に横顔を見せながら、ローは菓子を手で持ち直してから平然と頬張り、あっという間に飲み込んでしまうと。
「形はよく分からなかったけれど、確かに、味は美味しい」
 舌を出して唇をぺろりと嘗めながら、尤もらしく頷いた。
 そして、瞬きも出来ずに固まっているレックルに気障っぽい視線を送り、その口元に小さな笑みを浮かべ。
「王国一の花嫁くらいになら、なれるんじゃないのかい?」
 そんなことを告げるなり、彼はくるりと背を向け、魔法で忽ち出現させたログハウスの中にさっさと消えてしまった。
 後に残されたレックルが見つめる先で、ぱたりと扉が閉められる。その拍子で、レックルの口から半欠けの菓子がぽろりと零れ落ちた。
「……どういう意味?」 
 混乱で顔をくしゃくしゃにして、微動だに出来ないまま、レックルは呟く。
 膝の上に落ちた菓子を見下ろせば、何故だか不思議と、先刻ほど不格好には見えない気がした。



創作小説「ノンフィクション」 

外伝 妃の条件



Fin.





●バレンタイン企画おまけ


田中VS山川・バレンタインチョコレート争奪48時間大決戦!!

 投票期間 2013.02.12〜02.14
 総得票数 13票

 田中君にあげる 5票
 山川君にあげる 8票





●「田中君と山川君」バレンタイン特別編

*「貰ったチョコレートを総計してみよう!」


「♪や〜まかわくん お〜まち〜なさーい!」
「ん? 懐かしいな、『郵便屋さん』?」
「♪チョコレート〜が いーくつも 落〜ちまーした〜! ひろ〜ってあーげまーしょ」
「あ、本当だな、悪い……」
「いっこぉぉぉぉぉっ! にこぉぉぉぉぉっ! さんこぉぉぉぉぉっ! よんこぉぉぉぉぉっっ!」
「イタタタタタタ!? おいコラ馬鹿田中、殺意を込めて投げるな! 軽く殺人未遂だぞ!」
「ふっざけてんじゃねぇよ、何を両手からボロッボロ零してやがるんだこの悪魔! お前今日が何日だと思ってんの!? もうバレンタイン終わってるんだろーが、何でお前だけ未だにバレンタイン続行してるんだ、お前の二月十四日は何百時間だあああぁぁぁっ!?」
「だから投げるなっつってんだろうが! 訊きたいのは俺の方だっつうの、ようやく十四日が終わったと思ったのに、やっとの思いで空にした下駄箱にも机にもロッカーにも、朝来てみたらまたみっちり詰まってんだよ! いつになったら二月十四日が終わるんだよ!」
「ハイ、ななこぉぉぉぉぉっ! はっこぉぉぉぉぉっ! きゅうこぉぉぉぉぉっ!」
「新手の妖怪か!?」
「番町チョコ屋敷のお卓とでも呼べば良い!」
「お菊の方がまだ可愛げがあるぞ!」
「つーかさ山川、ホント、何なんだよそれ? お前、バレンタイン当日だけで一体いくつ貰ったの? それ加えると一体いくつになんの?」
「え……ああ、当日貰った分、まだ数えてなかった。家に持ち帰るだけでへばっちまったからなぁ」
「神よ! 今こそこの俺に悪を裁く大いなる力を与えたまえ! くらえ聖剣、タナッカリバアアアァァァ!」
「どこから持ってきた、そのラバーカップ(トイレスッポン)!? キング・アーサーに謝れ!」
「七護山高校男子生徒&男性職員五百人に訊きました☆ バレンタインの山川健悟についてどう思う? 滅びろ:99.9% その他:0.1%」
「おい、五百人のうち0.1%って、0.5人じゃねぇか。統計の不正疑惑がありありだぞ」
「チッ、神経質山川め。素直に、自分が嫌われ者だという事実に愕然としてりゃ良いものを」
「七護山高校生徒&職員約千人(田中除く)に訊きました。田中卓也についてどう思う? 馬鹿:8% すごい馬鹿:92%」
「純度100%馬鹿じゃねぇか! 地味な仕返しヤメテ山川! っていうか、チョコの話だよチョコの! お前が貰ったチョコの総数!」
「お前が先に脱線させたくせに。大体、そんなもん知って一体どうする気だよ。記録でもとってるのか?」
「夜な夜な山川の夢枕に立って、その数を羊よろしく数え続けてやる」
「とっとと成仏しろ!」





●ホワイトデー特別コント


田中君のモテ男殲滅ホワイトデーツアー


田中「アッテンションプリ〜ズ! 田中はこれより、ホワイトデーに鼻の下を伸ばす悪の権化共の頭上から、まぜまぜした納豆を爆撃するフライトへ出発しま〜す。痛快なモテ男殲滅の旅をお楽しみくださ〜い。まずはテメェからだ、喰らえ牧吉ぃぃぃぃぃっ!」
圭太「(シュルルルルシュパーァンッ←華麗な箸捌き) おっと、あぶねぇあぶねぇ。悪いな卓也、俺、納豆巻きの製造ラインでバイトしたことあるから」
田中「ぐぉぉ、まさか一人目から防がれるなんて……納豆巻きの製造ラインって、そんな箸捌きスキルが要求されんの? なんだよぉ、どうせ牧吉なんか、バイト先でも学校でもたんまりチョコレート貰ったクチなんだろ!」
圭太「いやそれが、2月14日はおっちゃんたちに囲まれながら深夜まで道路工事してたからな、バイト先じゃ一個も貰ってないんだよ。なんか学校でも貰えなかったしな、『圭太君は貰う相手がいるでしょ』とか言われてさ」
田中「へ、そうなの? なぁ〜んだ〜、アルバイター牧吉・恐るに足らず! ん? でもその割に機嫌よく見えるのは俺の気の所為?」
圭太「気の所為、気の所為。じゃな卓也、俺ちょっと用事があるからもう行かねぇと。あんまりはしゃぎすぎるなよ〜」
田中「は〜い……って、さては本命から貰ってやがるなぁぁぁっ!? そしてすでにいねぇぇぇぇぇっ!」


田中「気を取り直して二人目ぇっ! 受けろ、必殺田中NATTOボンバァァァっ!」
ゲン「(サッ!←山盛りご飯でキャッチ)うおぉ? 何だ何だ、一体何事だよ?」
田中「あああ、何をちゃっかり炊きたてご飯納豆のせを完成させてるんだよっ! 駄目じゃんこれ、必殺でも何でもないじゃん!」
ゲン「何を、はこっちの台詞だっつーの。ホラどうした、俺に怨みでもあんのか?」
田中「俺は今、世界中の男子諸君の心の代弁という貴〜い任務をこなしてる最中なの! 先月14日! あの侍マニアの美人なおねーさんと! 何かあったんじゃないのかいいやあっただろぉぉぉっ!」
ゲン「侍、っつーとキリー? と、先月14日? ……あー、なめこの味噌汁?」
田中「ホラやっぱりしっかり鼻の下伸ばしてんじゃ……なめこ?」
ゲン「おー、作ってやったけど。それが?」
田中「……ごめん、何か誤爆だったみたい」
ゲン「で、この納豆、喰って良いのか?」
田中「うん、どーぞ」


田中「三度目の正直っ! 田中ダブルNATTOクラァァァッシュ!」
ロー「(バシーン!←結界魔法) そもそも僕らの世界にはバレンタインなんてイベントは存在しないのだから、君が言う『あれはバレンタインチョコとは全くの別物だ』という意見は見当はずれだね」
トータ「(ちゃっかり結界の中に収まりながら)それを認めるのならば、貴方はやはり、バレンタインチョコなんて手に入れてやいないということだね。それを鼻高々に自慢するなど、見ていて滑稽なことこの上ないよ」
田中「……え? 何、なんでいきなり口論勃発してんの?」
ロー「ま、確かに君は、彼女からチョコレートケーキを貰ったかもしれないよ? ただしそれはただの食後のデザートであって、彼女からすれば何のイベント意識も存在しないのだから、それだってバレンタインチョコとは別物だろう」
トータ「そういう貴方は、彼女から菓子を貰うどころか強奪しているんじゃないか。図々しいことこの上ないね、サイト屈指の色男が聞いて呆れるよ」
田中「お〜い、喧嘩はだーめだぞ〜……?」


田中「ふはははははは、何か色々あったけど、とうとうメインディッシュの登場だな! ようやく見つけたぞ山川、ここであったが百年目! 田中グレートNATTOハリケェェェェ……ッ!」
山川「田中、クッキーが余ったんだけど食うか?」
田中「食う」


田中君のモテ男殲滅ホワイトデーツアー 完





 たくさんの投票ありがとうございました!








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